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                  適当に妄想小説やキャラ絵を 垂れ流したり躊躇したりする そんなブログでございます。


by くるひよ
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1話「卓球というスポーツ」

「2-10」

自分の脇をすり抜けていくピン球を見ながら、審判が点数をカウントした。
試合の只中でラケットを持つ手が痺れ動かず、足が張り付いている。
ドクンドクン
と体中の脈が騒いで、全然集中すらも出来ない。

「サー!」

相手の覇気のある声が自分に襲い掛かる。
自分の体は萎縮したままで、相手のサーブを打つ様を凝視し続ける。
その結果、横回転のサーブ、左隅に打ち込まれるのだと理解した。
ただ、体は動かなかった。動けよと思う間に・・・

カッ!

卓球台の左隅に深い横回転のサーブが打ち込まれていく。
棒になった足がその場から離れず、腕の運動だけで自分は打ち返した。
そして、ピン球は宙に舞った。




____________________________________

春が来て、自分は高校2年生になった。
1年の間は特にすることもなく、勉強をしていた。
部活にも入ることは無く、ぶらぶらしていた。
ただただ日々を過ごし、漠然とした不安を抱えている。
今日もそんな日の予定である。
今は人目を避けるように、昼休みの時間を利用して体育館裏に来ていた。
そこには古びたベンチと桜の木があって、そこでいつも昼食をとることにしている。
桜はもう葉桜で、ベンチの上には桜の花びらが数枚落ちていたが
特に気にすることもせず、ゆっくりとベンチに腰掛けた。
購買で買ってきたパンをビニール袋から取り出し、口に含んだ。
パンが口へと入った後、呆然と桜をただただ眺める。

「・・・」

周りは静みきっていて、自分は口をモゴモゴさせていた。
口の中のパンをのどで鳴らし
ビニール袋から紙パックジュースを取り出すことにした。
しかし、取り出そうと袋をがそごそさせている時に
視線が向けられていたことに気づいた。
その視線の元を辿って行くと、一人の少女が居た。
短い髪を風で揺らされながら、黒く澄んだ瞳で自分を見つめていた。
おどろおどろしくその少女は口を開く。

「・・・健太郎。」
彼女は自分の名をそっと呼んだ。
その様子に、びくつきながらも彼女の呼びかけに答える。
「どうしたの。あ・・・大篠さん。」
「名字呼びかー。片内君。」
彼女はどこか寂しそうな顔を浮かべながら、ぽつりと呟く。
「もう、高校生だろ。異性同士で名前呼びなんて小学生までだよ。」
自分は苦々しい顔を浮かべながら、彼女を見る。
この大篠といわれる少女は自分の幼馴染で、名前をあすかという。
彼女は卓球クラブからの付き合いで、いつも自分に卓球で負けては
勝つまでやめさせてくれないほどの負けず嫌いであった。
そのときの自分は一切手を抜かったので、親に手を引っ張られるまで彼女は
挑戦し続けて来て、決して諦めなどはしなかった。
今でも、大体そんな感じの人だと思う。

「そりゃ、そうだけど。」
彼女は口を少し尖らせて視線を下に向ける。

「・・・」「・・・」

両者とも言葉を出さなくなったので、場の空気が重たくなった。
自分としては彼女に特に話すことも無いのでただ黙るしかない。
そんな中、彼女は自分の方を見たり見なかったりして落ち着きが無かった。
慌てた様子を何度か繰り返した後に、意を決したように口をきゅっと結んだ。

「片内君、また卓球をやろうよ・・・。」

自分を見つめながら、どこか歯切れが悪い口調でそう問いかける。
特に、困惑などはしなかった。
彼女は一年生の頃から自分に卓球の勧誘をしていたからだ。
その度、自分は言葉を濁し続けた。

「・・・無理だ。」

今回も、変えることは無い。
いつもがガラリと変調することなんてしたくなかった。

「何で?いつも、こっそり練習してるよね、片内君。」
ただ、今回は彼女が少し焦ったように食いついてきた。
「練習?ああ、素振りとフットワークのこと?アレはただの癖だ。」
本当に、癖のようなもので体が暇をもてあますと、
勝手に卓球のモーションをなぞってしまう。
後悔?悔い?不満?
そんなものではないとラケットを振り続けることもよくあった。
「癖って・・・、好きだからしてしまうんじゃないの?やろうよ!」
「ごめん、それでも・・・無理。」
「わかった。もう、いい!」
飛鳥は悔しそうな表情で言い切った。
少し間があいた後に、ふらっとしながら彼女はその場から離れていった。
さすがに、幼い頃からの付き合いといっても、1年間もこの様子だから
見下げたのだろうと自分はそう捉えた。


そんな出来事があっても、いつもどおりは崩されない。
しかし、ある日のことである。
自分が授業中に釈然しない部分があったので、放課後図書館で調べることにした。
それは専門的な内容に近いものであり、ろくな情報もつかむことができなかった。
努力に対しての、見返りが無く自分は少しイライラした。
その気持ちのまま下駄箱に向かい、着いた頃にも動きにその態度は出ていた。
学校の玄関の下駄箱からシューズを取り出し地面へ無造作に放り出した。
すると、一方の靴が正着陸し、もう片方は横向きに不着陸した。
上履きを靴箱にしまった後、横向きになった片割れをはける様に戻して
片足ずつシューズへと突っ込み、玄関から出た。
そこで、真っ先に目に入ったのは薄暗い外で輝く体育館だった。
耳を澄ませば、かすかに球のはじける音が聞こえる。
よりその音を聞きたくなった自分は、体育館へじりじりと近寄り
外壁に耳をくっ付けることにした。

その音はカッ・・・カッ・・・カッと
しゃべり声とラリー一つ分ぐらいの音しかしない。その上、このリズムはど下手だ。
あの大篠が支持している部とは思えなかった。
だから、つい覗いてしまった。
中を見てみると、素振りをしているものが3人とふざけてラリーをしてるものが一組。
しゃべり声はどうやらこのラリー組みからのモノの様で、ループした適当な
打ち合いをしていてラリーと表現するのも憚れるものだ。
by piyoppi1991 | 2012-04-14 17:21 | 負けない。