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                  適当に妄想小説やキャラ絵を 垂れ流したり躊躇したりする そんなブログでございます。


by くるひよ
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君と本を詩う。 転(3/4)

「ふぅ」

と一息を入れ、自分を落ち着かせた後に
七川さんから忘れることなくメルアドを交換した。
「えへへ。」
通信した後に、気恥ずかしく彼女は笑う。
「メルアド交換したことがあまりないので、ちょっと照れます。」
そう話しながら、照れ笑顔のまま彼女は頬をかく。
俺にとって、メルアド交換なんて出会いの挨拶みたいな
ところがあったからその反応に新鮮さを感じた。
「へ~、そうなんだ。」
「ははは。そう言えば、この前話しかけられた時スーツ姿でしたよね。」
「あー、うん。こんなんでも社会人ね。君は大学生あたり?」
「大学生です。丁寧語とか使ったほうがいいですか。」
彼女はまじめな顔で俺に問いかけるが、
その真面目さがくすぐったいぐらい聞く姿が可愛らしかった。
「十分丁寧語口調だよ。もうちょっと砕けてもいいぐらいだよ。で・・・」
「履歴書などはいらんが、住所と電話番号ぐらいはおしえてくれんか。」

俺は少しでも会話を間延びさせようとしたものの敢え無くご老人に阻止された。
「はい。何か書く物と紙みたいのものありませんか。」
彼女は自分へ軽く会釈した後、老人の問いかけに返しながら
あわあわとした様子で老人に向かって小走りした。
「このメモ帳と・・・ほれ、鉛筆だ。」
「ありがとうございます。えっと・・・携帯電話の方もですか。」
「いつも電話が通じるほうにしてくれ。」
「はい。わかりました。」
そんな七川さんと老人のやりとりを横目で見ながら、
自分は会話をどう切り出していこうかと言う難題について考えた。

アイデアをひねり出そうとしてから、
数分後に彼女は自分のところへ戻ってきた。
結局、有り触れた回答しか思いつかなかった。
「どんな感じ?上手くいきそう?」
「楽しくやってけそうです。」
彼女は表情を嬉しく輝かせていた。
「はー、本当に本が好きなんだね。」
「う~ん、どうなんでしょう。多分、勉強が好きなんですかね?」
「勉強が好き?」
「といっても、学校でやるような勉強は苦手ですけど。」
「ん?どういう意味?」
「えっと、例えば何で日本は戦争しちゃったとか・・・こうぞくぞくしません?」
「え。」
「あはは、すみません。これ言うと大体引かれちゃいます。」
「それが勉強?」
「え?う~ん、こういった追い詰められた時にでる日本の起源を
_読み解くことが勉強だったりすると私は思ったりするのです。」
「読み解く・・・」
「うわー、やっぱ私口下手だー。」
彼女は発言に自信がもてない様子で、話し方もふわふわしている。
「本にはそういう楽しみがあると。」
「あ、はい!多分、本じゃなくてもいいかもしれません。
_ただ、ネットとか苦手で・・・検索とかは出来ますけど。」
「へー。」
なんだか分からんが、彼女の成りの楽しみ方があるってことだろう。
「だから、本が好きなのか。」
「はい。もちろん、普通に読む分にも好きですけどね。」
と彼女は愛想よくニコニコと笑う。

どうやら、この笑顔には心が穏やかにするといった癒し成分があるらしい。
おかけで、自分の脳内は大分落ち着いた。
今後また、この笑顔に出会う為にもしっかりと"約束"を
こじつけておくことにした。
「なんか、お勧めの本とかあったりする?」
「えっと、何か好きなジャンルとかありますか。」
彼女は目を輝かせて質問に反応した。
「うーん、読みやすいものかな。小説とかでも。」
「・・・、これでいいかな。」
七川さんは本棚から一つ本をひょいと取り出しだした。
そのまま本をカウンターへ持っていき、静かに置いた。
「おじいさん、御会計お願いします。」
「ん。それぐらいなら持って行っていいぞ。」
「駄目です。払うものは払います。」
そう言って、彼女は代金を置いておく。
老人は黙ってお金をレジにしまい、読んでいた本に目を向けなおした。
というより、値段込みで覚えているのか。そいつはすごいな。
「はい。どうぞ。」
「お金・・・」
「他人に勧めるときはお金取らず。です。」
「う、うん。これって、本好きのルールみたいなもの?」
「えっと、迷惑だった?」
彼女の不安げな瞳が自分を覗いてきた。
社交辞令というものをまったく知らない純粋さに驚いた。
もちろん、話題づくりのためにも読む気はあったのけれども。
「いや、全然。ありがとう。面白かったらお金は返していいかな。」
彼女はきょとんとした。
ただ、真意に気づいたらしく笑顔で返答した。
「はい!」


家に帰宅したのちに、七川さんからもらった本を読むことにした。
平成20年の本で恋愛小説だった。
正直のところ、少しほっとした。なんだ、女の子じゃんと。
彼女は、”読みやすい”を汲んでくれていたようで有難かった。
「よし、読むか。ふむふむ。」

見事に熟読した。
話題作りとかではなく、純粋に面白かったからだ。
内容は、
西欧中世の話で罪人に商人の男が殺されかけ
しばらく街に帰ることができなくなった事から始まる。
罪人は男が愛した女に、男は遠くへ行ったと伝える。
女の心は揺れる。
見捨てられたのか。飽きられたのか。
罪人はその心につけこんで女を口説き落とした。
1ヶ月が経ち、
男が帰ったころには女は男に心を開くことは無かった。
そのときに、男が女に最初に発した言葉は
「私は君の名を忘れない・・・か。」
その名が純愛と言う意味でつまりは”愛している”ということらしい。
言葉を伝えた男は苦難の末に、女と結ばれる。
「・・・なんというか、劇とかそういうのに近いな。」
劇だとこの展開はバットエンドに向かいそうだけど、
それをハッピーエンドに変えた作品のように思えた。
平成20年の本だから、今の人に合わせたといった感じかな。
それにしても、この本の面白さは
巡り合わせで恋愛を書いてないことだなーとか
色々考えながら今日は寝ることにした。


翌日、起きた時に朝が何とも爽やかだった。
この気分のままに、足取り良く会社へと通勤した。

定時を過ぎた後、早速七川さんの居る本屋へ向かった。
日が暮れる頃で、通り過ぎる建物郡は黄金色に染まっていた。
着くと直ぐに本を整理している彼女の姿が目に入る。
「やあ。どうだい?」
「あ。」
話しかけた自分に、彼女は気づき
整理していた手を止めてこちらのほうに視線を合わせた。
「今、仕事中だから・・・」
と困った表情をとりながら彼女は話した。
どこか、そわそわしているようにも見えたが。
「えっと、それもそうだね。」
「別にいいよ。客は入らんしな。」
カウンター側から姿は見えないが、老人の声が聞こえた。
「おじいさん、それは駄目です。仕事は仕事です。」
「ははは、なら客の接待だ。そこの坊やが買うかもしれないだろ。」
「そだな。この前の本の代金払わしてもらいたいし。」
「んー。そういうことなら・・・、でいいのかな?」
「ええ。お金を落としているなら客だ。」
「じゃ、これ。じゃら銭はいらないからおつりはいいよ。」
と彼女の手のひらに1000円札を1枚乗っけた。
「は、はい。えっと・・・どうでしたか?」
子供が母親に尋ねるかのような
おずおずとした表情で彼女は見つめる。
「うん。面白かったよ。内容は複雑じゃないけど、
_台詞に一々考えさせられるっていうか。」
「わぁ。」
そこには目を輝かせる彼女が居た。
「特に、罪人が葛藤するシーンで出る台詞とかたまらなかった。」
「"彼女を愛していないのだろうか。"とかですか。」
「いいよね。自分のした行為は彼女を苦しめるが
_それをしないと主人公とくっついてしまう。」
「単純に、それぞれが正しいって言う目線じゃないから
_出る台詞ですよね。」
「そうそう、正に考えさせられる作品だったよ。」
「うわぁ。」
彼女の目の輝きはいっそうと増していた。
さながらその姿は、絶滅したと思われる同胞を
見つけた瞬間のようであった。
それから、会話は積もりに積もる。
元々は話ネタ程度のつもりだったんだが、
もはや”小説”が目的になっていた。

「楽しかったー。」
と七川さんは満足げの表情を見せていた。
「ははは、十分に楽しんだか。」
そう言いながら、本棚の影から老人が現れた。
十分にというのは、今が午後9時だからだろう。
接待もここまで長引けば、成功だな。
「小説でこんなに話し合うと思わなんだ。」
自分でも驚くほど話していたから、思わず言葉が出た。
「ふん、本を通じて会話をする・・・最近の若者をそれをせんからな。」
「ははは、手段が増えただけっすよ。」
「それもそうだな。俺は、本が好きだからな。だから、余計実感するんだろうな。」
「んー、私も割りと実感しますね。
_マルマル動画とか言われてもわからないよって。」
「ここでは俺仲間はずれっすか。」
「いえ、文月さんの本に対する考察、好きです。何時読み始めたとかは
_関係ないと思います。」
彼女はニコニコしながらそんなことを自分に言う。
好きという部分に反応しまいと自分の顔がピクリと動く。
「だから、本じゃなくてもいいからメディアに触れたいなーっていつも思います。
_メクスィとかイイッターとかは使い方分からなくて挫折します・・・」
「当然、俺もわからん。知らんでもよし。」
と老人は胸を張る。
「威張ることじゃないですよ。まぁ、無理にやる必要も当然無いけど・・・」
「ははは、そ、そうですよね~・・・?」
彼女はいまいち自信なさげではあった。
「”それでも、本を愛さざるを得られないのだ。”かな。」
「おじいさんもこれ読んでいらっしゃっていたのですね。」
と彼女は自分が片手に持っている例の小説を指差した。
「まあな。」
「えっと、"それでも、彼女を愛さざるを得られないのだ”ですっけ。」
「そうですね。罪人が最後に主人公へ当てた言葉です。」
「・・・まぁ、それで主人公が手を引くと言う話はあるんだがな。」
と老人は少し物寂しげな顔をして呟いた。
「え、これの元があるんですか。」
自分は聞かざるを得なかったのだ。
「元々、演劇の話さ。」
「へー、それっぽいとは思ったけど。」
「その演劇も見てみたいなー」
そんなことを良いながら、彼女は笑う。
「本にはない。残念だがな。」
この老人の発言を期に、夜も遅いからと言うことで
帰宅することになった。
ふと、時計を見るともう10時。
確かに、女性を帰らせる分には遅いな。
「ほれ、夜道は危険だから。送ってやれ小僧。」
「言われなくてもするさ。いこっか七川さん。」
「はい。おじいさんありがとうございました。」
「ん。」
老人はそう言って、背中を向けて店内へと戻っていく。
帰り途中、またも小説の話題で盛り上げながら
次に貸してもらう本について話し合った。
多分、次は推理小説になりそうだ。
「ありがとうございます。」
「いや、気をつけて。」
「はい。」
と満面の笑みを浮かべて、手を振りながら彼女は
駅のホームへと去っていた。

帰宅した後、今日のことでニヤニヤしていた。
好きな人と話すのはいつも楽しいものだ。
ただ、七川さんが手段を通じての対話にここまでこだわったり
    顔を向き合わせての会話が以外に苦手だったり
    本を見るときの姿勢だったり
がどれも新鮮に映える。
自分が夢に思ったイメージよりも生き生きしていて嬉しいと思えた。
そうか、これが始めて出会った”好き”なんだ。
本当にそう思った。
by piyoppi1991 | 2012-03-01 12:26 | 君と本を詩う。